Vol.2

絵を描くことで世間に認められ、自信もつけば、思いやりも生まれる

KANSEIProjectsCommittee
柳川アーティストとして働くことで、個々の変化はありますか?

相澤それはもう顕著にあります。
癇癪を起こしたり、泣きわめいていた子が、本当に穏やかになっていきます。
それは、自分の存在を認められているからなんです。

先日、アーティストたちを1対1でインタビューしてみる機会がありました。

「何か嬉しかったことはある?」と聞くと、かつて癇癪持ちだった子が、
「あるんだ。おじいちゃんが僕の絵をいっぱい買ってくれた」と、答えてきました。
おじいちゃんに認められたことが、何よりも嬉しかったんですね。

その話をお母さんにしたところ、嬉しいとか、ありがたいという話を彼がすること自体が考えられないと驚いていらっしゃいました。
私は「この子は優しいですよ」と断言しておきました。

千田当初は「少しだけ残業をしましょう」と声をかけるだけで、パニックになって大騒ぎだった子が変わりましたね。

相澤先週もアーティストたちが絵を描いているアトリエで、椅子と椅子の間をすり抜けながら、「私、デブなんです。通してね」と声をかけていたら、その子が「デブじゃない!」って、否定してくれていました(笑)。
優しさですね。変わったなぁと思います。

KANSEIProjectsCommittee

千田アーティストたちに作業場所を移ってもらうということが、時々あります。
パレットを持って移動する子が、道具を落としてしまうということが何度かあったんですね。
すると、その子はパレットを持ってあげるという行動をとるようになりました。
かつては他人の立場に立って、他者のサポートをすることは一切なかったので、本当に変わりましたね。

相澤他人のものを触るとか、触られることを、自閉症の人は極端に嫌う傾向があります。
本来は、他人の持ち物を触るなんて考えられない様子なんですよ。

千田絵を描くことで社会に認められた経験に、自信もつけば、自我にも目覚め、さらには他人を思いやる気持ちも生まれたということだと思っています。

柳川「企業の生産性を上げる」をテーマにしたセミナーを担当させていただくことがあるのですが、まったく同じですね。

健常者は言葉でコミュニケーションがとれるので、そこまで顕在化はしていませんが…。
自分自身を認められない人は、どれほど能力が高くても、どこに行ってもなかなか満足しないという傾向があることがわかっています。

千田さんはアート村のマネジメントをする立場で苦労されることはありませんか?

千田問題を感じた時には、声をかけるように心掛けています。

集中力のないアーティストが一人でもいると、微妙な空気感で、他のアーティストにも影響していくんですね。そんな時は、なぜ描きたくないのか、きちんと話し合います。例えば、体調が悪いのか、本人のやる気の問題か、何か心に問題を抱えているのか。少しでも小さなサインを見逃さないよう、心掛けています。

柳川同じアトリエで作業をしているアーティストに一体感のようなものはあるのでしょうか?

千田絵を描くことは個人プレイなので、特別にはないですね。
ただ、周囲のアーティストに影響を受けることはあります。
一人のアーティストに「この色遣いはとってもきれいだね」と話していたら、別のアーティストがいつの間にか色遣いを微妙に変えていたことがありました。
「あの人の色遣いは絵に奥ゆきが出て、ステキだったから」と。

また、一人ひとりがものすごい集中力で描いているのを見て、お互い「自分も頑張らなくては」と思うようです。

相澤絵の描き方には、一人ひとりに個性があるんですが、周囲のアーティストの影響を受けて、取り入れようとすることもあります。いやいや、あなたはあなたの方法でと、止めに入ることも…(笑)。

KANSEIProjectsCommittee

柳川一般企業でよくみるのが、営業成績を競わせるようなマネジメントです。
管理する側としては、給与に見合った成績をという期待もあって、「A君のように頑張れ」とはっぱをかけるのは、楽なんですね。

KPCでは企業で働く人の幸福度を調べているんですが、こうした企業には不幸な人がたいへんに多く、生産性も上がらないということが見られます。
ポジティブに、一人ひとりのモチベーションを上げていくことを、企業も考えなくてはならないところに来ています。

パソナハートフルは、「才能に障害はない」として、人間の能力を最大限に発揮しようというポジティブな発想でスタートしていると感じています。
大多数の企業とは異なる変わった取り組みが可能になっている背景を聞かせてください。

千田障害も肯定するという考え方です。
相澤先生もおっしゃっているように、ここでは肯定からすべてを始めます。
ひとり一人、肯定される内容も異なります。

パソナグループ代表の南部靖之も、パソナハートフル社長の深澤旬子も、トップの考え方がぶれない、障害者のサポートを第一に後押しをしてくれるので、私たちスタッフは自信を持って取り組めています。

例えば、トップが「そうは言っても絵が高く売れないと…」とプレッシャーをかけてくるようなことがあればどうでしょう。
パソナハートフルでは、画商を通していません。
絵を高く売らなければならないとも規定していません。

障害者アートにおいては、過去に、絵が商品として高く売れた結果、アーティストに商業的なさまざまな要求が突き付けられ、もてあそばれるような扱いを受けた末に、短期間で捨てられるというようなこともあったようです。

高く売れるのはよいことですが、商業的に都合よく利用されるようになってしまっては本末転倒なので、高く売ることだけを第一の目標に掲げてはいないのです。

柳川営業担当の岡田さんはいかがですか? 
絵を売るとなると簡単なことではないと思います。立場上、難しいと感じることはないのでしょうか?

岡田肩書きは営業ですが、営業しているという感覚はありません。
彼らの才能を活かして描いてもらった絵に感動してくれる人、ファンを増やしたいと考えています。

KANSEIProjectsCommittee

柳川ファンを増やすために、どのような活動をしていますか?

岡田主役はパソナハートフルのメンバーです。
メンバーの中には言葉で説明することが難しい人もいるので、彼らの代わりに彼らの活動を言葉で伝える役割を担っているという感覚です。

柳川障害者雇用のコンサルティング事業もなさっていますが、その分野の営業についてはいかがですか?

岡田障害者雇用は法律的にも義務化されてきています。
雇用しなくてはならないから雇用するのではなく、まずは障害者への理解を深めていただくようにお伝えしています。

柳川パソナハートフルが企業として課題としていること、目指していることがありますか?

千田前身から含めるとパソナグループが障害者雇用に取り組みはじめて29年目になります。ここまで創り上げてきてくださった人々がいて、その活動を継続しながら発展するという時期に来ていると思っています。
次世代の雇用や、彼らにとってより働きやすい環境を整えていくことが課題です。

KANSEIProjectsCommittee

パソナハートフル内のエレベーターには、アーティストたちの絵が扉一面に描かれている。