2019/04/13.Sat. 22:22

禅のごとく自由な発想で問題解決を図る サスティナブル建築の牽引者 Vol.1

その1
建築のテーマは問題を解決すること
禅問答で鍛えられた五感を駆使する思考力

KANSEIProjectsCommittee

本当に求められていることは何かを知ることから

例えば、ここに学校を建ててくださいというオーダーがあります。
施主のプログラムに合わせて設計することは、時と場合によっては大切なこと。しかし、依頼者は建築の専門家ではありません。多くの人にとって、建築に関わるのは何十年かに一度のことです。

依頼者には、何かをしたいという想いがあるはずです。
それは何かを見出すことから始めます。
アメリカで教えられた考え方は、そこを考えることが大切だということです。

1998年に、初めて日本でプロジェクトを依頼されました。
それまで日本で仕事をしたこともなければ、大人になってから暮らしたことさえありませんでした。

依頼をくつがえして問題解決の道を提示

仙台の幼稚園経営者からの依頼でした。
話を聞くと、「現在は幼稚園を経営しているのだけれど、子どもの数が減ってきているので、幼稚園を止めて、小中高に切り替えたい。そのために建て替えをしたい」というオーダーでした。願わくば、短大まで作りたいと。

実際に仙台へ行ってみたのですが、少子化という話がピンときません。何かおかしいと感じました。
確かに、子どもの数は減っているし、老人は増えています。だからと言って、経済が経営者の言うように動くとは限りません。

仙台のことはよく知らなかったのですが、どのような子供のための施設があるのかを、新聞を見たり、TVを見たりして調べてみると、0歳児~3歳児向けの施設がほとんど見つかりませんでした。
小さな子どもの育児・教育機関は皆無に近い。それどころか子どもを預ける施設がなくて、お母さん方が困っているという記事が出ていました。おかしいと感じますよね。

子どもの数が減っていて経営が立ち行かないというのであれば、子ども向けの施設が溢れていなければおかしい。それなのに、預ける場所がないと嘆いているわけです。

少子化うんぬんは言い訳だと直感しました。よくあることです。
誰も責任を取りたくないがために、経営がうまくいかないことの言い訳を少子化にしているだけだと感じました。

アメリカの大学で教育を受けてきたので、こうしたことは許せません。
幼稚園の先生方に、小・中・高校と上へ行くのではなく、3歳児・2歳児・1歳児・0歳児と下へ行きましょうと提案しました。幼児向けの教育プログラムもあるのですから。

依頼とは逆の提案をしましたので、当然すったもんだしましたが、先生方をアメリカへお連れして、幼児向けの教育施設を視察していただきました。現場を見れば、幼稚園の先生方なので、ぱっと理解されました。教育プログラムも、施設も実在しているのです。

やってみましょうか…ということになりました。

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常識がハードルなら常識を変える

もう一つの問題が資金繰りでした。新施設の建設には費用がかかります。
教育機関といえども、資金を借り入れ、返済しなければならないわけです。
現状維持で、建て替えのための借り入れをすれば、負債だけが増えて経営が行き詰るのは目に見えています。それを、どう解決するかが課題でした。
いろいろな方法があります。一つが授業料を上げることですが、私は園児数を増やしましょうと提案しました。

その当時、2つのキャンパスがあり、園児数は1500人ずつの合計3000人でした。1500人といっても、500人が園児、500人が英語教室、500人が補修講座の受講者でした。
私はこれを2500人ずつの合計5000人に増やすとして計画しました。

ところが、これには経営陣が驚いてしまって「少子化が進んでいるのに、園児の数を増やすなんて、集まりません」と。それに対して私は「そんなこと、絶対にないです」と断言。

状況を紐解いていくと、できないとする理由の一つが文部科学省による規制でした。
園は文部科学省から補助金をもらって運営されていました。そこには園児数の制限が付いてまわります。聞けば、補助金をもらわなければ規制もなくなるとのこと。
これでは集団自殺のようなものです。
「それなら、お金は返しましょう」と提案しました。

県からは大変なお叱りを受け、厳しく追及も受けて、大騒動になりました。
行政の作った予算をいらないと言い出したので当然といえば当然ですね。

それでも「要りません」と返金して、第一期工事として2500人計画を作ってみました。
すると、申込みが殺到。抽選から溢れ出る人が出て、第二期工事にも着手。それでも、抽選で入れない人が出る事態になりました。第一キャンパスが1999年竣工でした。

すでに10年以上経ちますが、未だに入園は2年待ちです。
生後6か月からネイティブの先生のもとで英語教育を受けられる「英語イマージョン教育」という特殊なプログラムも作りました。これなどは生まれる前から申し込まないと入れないという状況です。

少子化は問題ではなかったわけです。
私にとって建築プロデューサーの仕事とは、この事例のように問題を解くことです。

幼稚園の先生方はその道のプロフェッショナルです。それは揺るぎのない事実。
しかし、時代が変わろうとする時、その人々が次に何をすべきなのかは、別の視点から考えてみる必要があるのだと考えています。

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アメリカで学んできた“スタートレック・メンタリティ”

建築は他人様の商売を扱う仕事です。
例えば、病院の設計を依頼された場合、私は医療について徹底的に調べます。
医師のように病気を治す能力はなく、自分の風邪さえ治せませんが…。

医師の多くは治療者で、10年・20年先の社会と医療についてまで思いが及んでいる人はごくわずか。未来を予想するということについてはアマチュアです。
医療を取り巻く未来の状況はどうなるのか、保健制度は、医療技術はといった諸々を現状から紐解いて、多角的に予測する専門機関があるので、こことタイアップして解決すべき課題の洗い出しから始めます。
私はこれが建築だと考えていますが、日本にはこうした考え方が思いのほかないようです。
ある意味、文化の違いなのかも知れません。

私は過去に、400人を同時に手術できる病院の設計にメンバーの一人として関わったことがあります。この病院には医師が3000名ほどいて、常に医師がスタンバイしています。
例えば医療施設にしても、このように日本では破天荒だと考えられるような規模の施設がアメリカには普通に存在しています。

「ここまでしなければいけないのか」と思うようなことまで、考えることが大切だとする文化です。変なこともいろいろやりますけれどね。

不可能なことはないとする精神で、“スタートレック・メンタリティ”と言われます。
1960年代に放映がスタートしたSFテレビドラマシリーズの『スタートレック』に象徴されるフロンティア精神ですね。「宇宙へ行こう!辺境の最前線へ行こう!」というわけです。

“スタートレック・メンタリティ”に一つの事例

1975年頃、私はシカゴのある大きな建築事務所にいました。そこは高層建築で有名で、使用する鉄の量を減らすことに挑戦していました。

創り上げたのは、櫓を組んだような100階建ての細長い鉄のタワー。ダイアグナルと呼ばれる対角線の筋交いを入れることで強度を出すことを発案しました。
細長い建物なので、伸び縮みします。ところが、シカゴは夏は暑くて、冬は寒い。冬は北極からの風がタワーの北側に吹きつけるので縮む、南側は伸びるという現象が起きます。

その当時はまだメインフレームの大型コンピューターしかない時代でした。
事務所は、タワーの歪みを計算するために、その大型コンピューターを購入し、オフィス2フロアーを取り払って設置しました。2階に作業場、1階は人が歩けるようにした配線スペースでした。そして、コンピューターを稼働させるために、コーネル大学の大学院生も含めて10人ほどを雇い、私たちも一緒になって、プログラムを書き、パンチカードに穴を開け、計算を行いました。
コンピューターでプログラムを組んでシミュレーションをしたわけです。すると、いくら計算しても伸び縮みが出て歪んでしまうとわかりました。鉄材を太くするのでは、本末転倒です。

どうするか? いろいろと頭を悩ませましたが、温度差を無くせば良いということになり、外の構造全体をエアコンで包み込むことにしました。柱を包む、その包みの部分をエアコンにしてしまったのです。

こんなおかしな発想をするのがアメリカです。すべてを自分たちで作る。できないことはない、やるんだという姿勢は、今でも変わりません。
ただ、できないことはないという前提で始まるので、一方には、無理難題を言ってきたり、費用が膨大になって問題になることもままあります。

この考え方については、ケネディ大統領の存在が大きいと思っています。
1957年に、ソ連が人類初の人工衛星スプートニク打ち上げに成功。宇宙開発のリーダーを自認していたアメリカの人工衛星計画は失敗して、その地位は地に落ち、アメリカ社会はパニックに陥るほどの事態でした。
そこに1961年、ケネディ大統領が「月へ行こう!」とアポロ計画を宣言。1969年の人類初の月面着陸への道を拓くことになりました。アメリカのスタートレック・メンテリティの始まりはここにあると思っています。
「やればできるんだ」ということを目の当たりにしたわけです。

この精神が建築の世界にもあります。

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