2019/04/20.Sat. 22:22

禅のごとく自由な発想で問題解決を図る サスティナブル建築の牽引者 Vol.2

建築家

辻 純一 さん

1948年、秋田県秋田市育ち。県立秋田高校卒業後、1968年渡米。1969〜1972年、ワシントン大学建築学部(ミズリー州セントルイス)。1972〜1975年、コーネル大学建築学部(ニューヨーク州イサカ)修士課程卒業。1976〜1986年、SOMなど3つの設計事務所で研鑽。1992年からツジ マネジメント インク(ワシントン州シアトル)代表取締役、2000年〜、株式会社マキネスティコーヒー(東京都墨田区)代表取締役、2015年〜サステイナブル デザイン グループ(東京都墨田区)ディレクター、2017年〜株式会社アイジャスト(東京都墨田区)CEO
オフィス、ホテル、住居、医療施設、教育施設、リクリエーション施設など多数を設計、事業開発やマネジメントも行う。古典&民族建築理論を独自に研究、趣味は茶道藪内流。

http://tmiseattleusa.com/about-i-just-inc/

その2
バビロンの時代から引き継がれてきた
フォーマリズムの美意識が建築の原点

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美を追求することが建築の原点にある

建築は、フォーマリズムといって、「作品の形式的諸要素(コンポジション、フォーム、シェイプ、色彩など)を重視する美学的な方法」から生み出されてきました。バビロンの時代から培われている美意識を背景にした創作活動です。

その美意識は、バビロンからエジプト、ギリシャ、ローマに引き継がれ、東西へと広がりました。プロポーション(均整、調和、釣り合い)であったり、ビジュアルでの美しさをも求めるなかで、建築は3次元の世界、さらにそこに人が入ることで4次元の世界を表現しています。

4次元の世界での理想的な美を求めることが、本来の建築です。

私が世界で最も美しいと思っているのが「パラディオ建築」です。
アンドレア・パラディオ(1508〜1580年)は、イタリアのパドヴァ生まれの建築家で、ルネッサンス期のヴェネチアで活躍しました。
パラディオ以前には、アルベルト、ビトルビュースといった古典の建築家がいますが、400年に一人の逸材、建築の世界での聖人です。

北イタリアのヴェネツィア郊外に残されている「ヴィラ・アルメリコ・カプラ」またの名を「ヴィラ・ロトンダ」などと呼ばれています。建物の四方がファサード(正面)になっている正方形の建物は、完全な対称を成し、黄金比で設計されています。

建築の観点では、プロポーションには数字・幾何学・音楽の3つがあります。
これら3つのすべてを一般人である私たちに伝えたのが、ピタゴラスです。ピタゴラスは、寺院の戒めを破って、最も神聖な秘密を世にさらけ出してしまった人で、建築もここから始まっているとも言えます。
それまでは王に仕える聖職者にしか知り得なかった知識でした。聖職者だけが美しいものを作り出せたのは、数字・幾何学・音楽の均整・調和の秘密を知っていたからでした。

美とは神秘なパワーの源泉

美とは、当時の人々にとっては神秘そのもの。ハーモニーには「ここは天国に違いない」と思い込ませるほどのパワーがあったことでしょう。美とは神秘なパワーの源泉でした。

音階を生む知識、正三角形を描く技術など、当時の人々にはマジックでした。

今でもアラブ世界では、宇宙論として教えています。初めに点「・」があり、点「・」と点「・」をつなぐことで直線を生み出せます。一方の点「・」を起点に、もう一方の点をぐるりと回すと完璧な円が描けます。同じ大きさの円と円を重ね、重なり部分を結べば直線、さらにもう一つ、同じ大きさの円を重ねると、そこに正三角形が描き出されるという、無から美しい図形を描き出す手品のようです。
そこから宇宙論に入り、ミステリアスな幾何学の世界へと導きます。その一つがペンタゴン(五角形)です。

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パラディオの建築には、ペンタゴンの中に隠されている黄金比が使われています。どこまで広げていっても常に同じプロポーションが保たれ、しかもそのプロポーションは自然の中にも至るところに存在するというものです。
昔の人が気づき、建築に取り入れてきました。

ル・コルビュジエ、名前は聞いたことがあると思います。
スイスで生まれ、フランスで主に活躍した建築家で、本名はシャルル=エドゥアール・ジャヌレ=グリ(1887〜1965年)。モダニズム建築の礎を築いた20世紀の巨匠の一人です。
彼が描いているモジュール(基準寸法、基本単位、組み立てユニット)にも実は黄金比が使われています。

私は自分の作品にも黄金比を使っています。ある意味、バビロンの時代から変わらない主流派の、フォーマルな建築手法です。
日本の建築界ではそうした教え方をしていませんが、英米ではごく一般的な概念になっています。ポストモダンなどは、主流に対して、一つの亜流として出てくるものです。主流だけでは退屈だからですね。

詩人ランボーが喚起したダダイズム

建築はアートの一分野、アートの中では最も保守的なジャンルです。アートの最先端を行くのが文章を書く人でしょう。例えば、詩を書く人。

近代の詩人に、アルチュール・ランボー(1854〜1891年)がいます。
19歳で散文詩集『地獄の季節』を書いた早熟の天才で、晩年はアフリカ大陸でコーヒーと奴隷・武器商人として成功したそうです。

この人の詩は、1910年台半ばにスイスで起こった芸術思想・芸術運動「ダダイズム」に大きな影響を与えました。ダダイズムとは、現代アートの根本となったもので、その後にコンストラクティズム(社会構成主義)、キュビズムなどを生みました。それまで続いてきた西洋の伝統的なアートを否定する初めての動きだったわけです。

ランボーの詩は、言葉の意味よりも、音で絵を描こうと試みたものです。韻を踏みながら言葉の意味を綴るそれまでの詩とは違い、彼の詩は色でした。言葉で抽象画を描こうとしたもので、衝撃的でした。

ダダイズムの台頭で、1919年、工芸・写真・デザインを含む美術と建築の学校「バウハウス」(ドイツ語で「建築の家」)が、ドイツに設立されました。「ヴァイマルとデッサウのバウハウスとその関連遺産群」は、1996年に世界遺産に。バウハウスは、現代の建築も含めたデザイン全般に多大な影響を与えています。

建築の基本はパラディオであり、古くは僧侶による建築に遡るしかありません。
奈良の寺院にも、これらの影響が見られます。環境による変化が見られるだけです。

建築は昔も今も美を追求していると考えています。
夜、一人でパラディオの作品を定規を持って眺めていると、そこに秘められた神秘と現在への一体感で震えがきます。

洋の東西を問わず、人類の文明の源流はメソポタミアにあると思っています。今、その地が戦乱の地になっていることを思うと残念です。

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日本では陰陽五行説に知識を集約

陰陽五行説は平安時代の「大学」の知恵です。ただし、権力のための知恵でした。一般市民を支配するための知恵を集めたものです。
五行とは、「命(メイ/運命)・卜(ボク/占い)・相(ソウ/相学・風水)・医(イ/医学)・山(ザン/哲学)」です。相学は墓相、家相や人の名前や手相を扱うもの、医学には3つあって、1つ目が薬草など薬を摂ること、2つ目が鍼灸などの治療、3つ目が気で人を治すことです。

最も面白いのが哲学を扱う「山」です。「山」のその1が、今でいうブラックマジックです。呪いをかける術で、目的は説得にあります。
例えば、「あなたの家の前で明日の午後3時頃に火が出ます」と術者が言います。
「何を言っているんだか」と思うじゃないですか。ところが、気にはなるので、実際にその時間に家の前へ出てみるとボウっと白煙が出るわけです。

タネを明かせば、ナトリウムを使ったマジックです。
その日の3時頃に雨が降ることが、天気の予測もすることからわかっていて、家の前にナトリウムを撒いておくという仕掛けをしています。

しかし、実際に白煙を目にした人にしてみれば、度肝を抜かれて、以後はその人の言うことを信じるようになるので、意図的に仕掛けているわけです。
支配層は、そんなパワーを持っていました。