2019/05/19.Sun. 19:19

禅のごとく自由な発想で問題解決を図る サスティナブル建築の牽引者 Vol.4

建築家

辻 純一 さん

1948年、秋田県秋田市育ち。県立秋田高校卒業後、1968年渡米。1969〜1972年、ワシントン大学建築学部(ミズリー州セントルイス)。1972〜1975年、コーネル大学建築学部(ニューヨーク州イサカ)修士課程卒業。1976〜1986年、SOMなど3つの設計事務所で研鑽。1992年からツジ マネジメント インク(ワシントン州シアトル)代表取締役、2000年〜、株式会社マキネスティコーヒー(東京都墨田区)代表取締役、2015年〜サステイナブル デザイン グループ(東京都墨田区)ディレクター、2017年〜株式会社アイジャスト(東京都墨田区)CEO
オフィス、ホテル、住居、医療施設、教育施設、リクリエーション施設など多数を設計、事業開発やマネジメントも行う。古典&民族建築理論を独自に研究、趣味は茶道藪内流。

http://tmiseattleusa.com/about-i-just-inc/

その4
地球環境のためにCO2削減に挑戦
日本でのサスティナブル建築

KANSEIProjectsCommittee

「太陽光を利用したオフグリッド蓄電システム」を独自に

昨年の冬、富山でサスティナブル建築を手がけました。
1階がレストラン、2階がアパレルショップという建物です。若いオーナーでサスティナブル建築に関心があり、地球環境のためにできることをしたいという信念を持っていました。しかし、予算は限られていました。

建築で一番の問題はCO2です。CO2を出さない建物にするために、第一に木を使うことにして、第二に分厚い断熱材で建物の壁面と屋根を覆うことにしました。断熱材ですっぽり包まれている状態です。

当初は、「太陽光を利用したオフグリッド蓄電システム」を構築し、100%の電力自給を目指しましたが、予算的に無理があり、それでも50%の電力自給を成し遂げました。
太陽光で電気を作り、蓄電して使用することでCO2の発生を抑えるというシステムです。

前例がないことに取り組むわけで、電力会社がとても嫌がりました。システムの説明書や証明書を提出するようにと言われたり、電気が混じることを心配していました。前例がないので、認可もあるわけがない。「英語の資料ならたくさんあります」という状況でした。

そこで、電力会社から供給される電気を発電・蓄電した電気が混じらないようにすることを考えました。
大学で受けた「できないことはない」という教育が、今なお生きている事例とも言えますね。

結局、それまで存在しなかったものを作り上げました。

株式会社アイジャストのソーラークイーンによる解説

ちなみに当社アイジャストには、ソーラークイーンというニックネームを持つオフグリッドシステムの専門家がいます。今、誰よりもオフグリッド(蓄電)システムに詳しい専門家です。

KANSEIProjectsCommittee

ソーラークイーンこと、前川久美 氏

「太陽光を利用したオフグリッド蓄電システム」は、屋外に太陽光パネルを設置して、チャージコントローラーを通じてバッテリーに蓄電、直流電流を交流電流に変換して、電力会社から供給される電気と同じように使えます。
A4判500枚入りくらいの段ボール箱1箱サイズのバッテリーで約1.2kwhを貯められます。
さらに、家庭にある分電盤を改良して、電力会社の電気とオフグリッド蓄電システムで作った電気を自由に切り替えて使えるようにしました。
分電盤のレバーを上げると電力会社の電気を通し、レバーを下げると蓄電システムの電気が流れるというシンプルな切替装置を作りました。

家庭内のすべてを蓄電システムで賄おうとすると、いろいろなケースで容量が足りているのかなど難しい面がありますが、照明を蓄電システムで賄うなど、細かく切り分けて選んで使えるようにすると簡単です。

ソーラーパネルと蓄電池を設置している家庭は増えていますが、実際のところ、電力会社が供給する安い夜間電力を夜の間に蓄電して使うというものがほとんどです。コストは抑えられますが、ソーラーパネルと蓄電池を設置する意味はどこにあるのだろうか疑問です。要するに、電力会社の都合の良いように電気を買わされ、CO2の削減になりません。

現在、富山や秋田で導入している電気の切り替えシステムは、切り替えが自動でできるインバーターを使用。蓄電している電気が無くなってくると自動的に電力会社の電気に切り替わるようになっています。

再生可能エネルギーを優先的に使い、不足分は電力会社の電気を使うことで、生活には不自由なく、地球温暖化対策となるCO2削減を進めていけるというわけです。

KANSEIProjectsCommittee

電気の切り替えシステム。これにより簡単に、再生可能エネルギーと電力会社の電気とを切り替えることが可能。

ソーラークイーンによる解説その2「リチウムイオン・バッテリー」

日本中のどこでも活用できるシステムで、安全性にも優れていますが、問題は、このシステムを理解して普及できる人がいないことです。
8kwのバッテリーを置けば、家族2〜3人の日常生活は賄えます。

消費電力は、電気料金の請求書に記載されている消費電力量を月の日数30日で割ると1日当たりが算出できます。ただ、すべてを賄おうとすると瞬間的な最大消費に対応するなど、難しい点が出てくるので、照明だけとか、ここのコンセントで使う分だけと使用目的を区切って導入することをおすすめしています。

使用しているバッテリーは、安全性の高いものです。現在国内で家庭用に販売されているリチウム電池などは発火する危険性があるので使っていません。家に置くのは不安ですよね。塩水だけを使った「食べられる電池」というニックネームのバッテリーは、壊しても塩水しか出てきません。当社で使用しているリチウムバッテリーはリチウムイオンにコバルトを入れていないので爆発する危険がないリン酸鉄のバッテリーです。これは、アメリカ軍が30年以上にわたって使っています。ハリウッドなどの撮影現場でも使われています。

KANSEIProjectsCommittee

塩水だけを使っているという「食べられる電池」

スーツケースに入るほどの1.2kwhのバッテリーもあります。1.2kwhのバッテリーで、ごはん15合が炊けます。留守中にソーラーで充電しておいて、帰宅したら、ごはんを炊き、テレビを見て、音楽聴いて、携帯電話を充電とできるわけです。

家の中に置いて、毎日使えますし、アウトドアに持っていくことも可能です。電力会社が停電しても関係なく使えますし、災害時には持ち出して避難所などで使うこともできます。
再生可能エネルギーを使う分だけCO2を減らすことになります。

エネルギー革命を制する者が世界を制す(辻)

KANSEIProjectsCommittee

この“いつでも電気(TM)”が40万個使われるようになると、原子力発電1機が不要になる計算です。
原子力発電への危機意識が強い人への打開策ともなり得ます。原子力発電とCO2は関係がありませんが…。

前川さんは、「地球温暖化への危機感。これまで日本は省エネルギーを進めてきましたが、限度があり、根本的な解決にはなりません。それなら、CO2フリーの電気を作って生活できればいいじゃないかと考えましたが、賃貸契約の方々の場合、マンションなどの屋上にソーラーパネルを設置するとなると、ハードルが高い問題です。しかし、小さなオフグリッドくらいなら誰にでもできる、その小さな活動が広がったらと思っています」と。

これからは、マンション建築の際にソーラーパネルを設置するというような動きになっていくものと思います。

今、世界は大きな変革期を迎えています。一つがエネルギー革命で、燃やすエネルギーこと化石燃料エネルギーから、燃やさないエネルギー、再生可能エネルギーへの移行。これはもう時間の問題です。
もう一つが輸送革命で、すべての輸送手段が電気自動車や自動運転に変わろうとしています。
これに対して、日本は後手後手です。社会が大きく変化しようとしている時にその変革に参加している社会には巨大な富が生まれます。GNPが飛躍的に膨張します。

例えば産業革命期。当時は馬車で荷物を運んでいましたが、鉄道を敷こうと考えた人たちがいたわけです。鉄道を敷設するには莫大な費用がかかります。コストを比べれば、馬車の方が圧倒的に安いという状況だったはずです。それでも敷設に踏み切った国があり、世界観が変わったわけです。経済圏が一気に拡大したことで、結果的に莫大な利益が生まれました。

革命期にある今こそ、発想の転換をしなくてはならないのですが、一般の企業や人々はそれができず、目先のコスト計算に走っているように見えます。
どちらが高いかだけを考えています。20世紀型のエクセルを使った経済計算だけしていては置いていかれます。

エネルギーを制する国は世界を制する。それができる国は、日本を含めて世界に数えるほどしかありません。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツは、この点を理解して、開発を進めています。覇権どりの時です。世界を制し、そこに幸福な暮らしを描くこともできるのです。

現状では答えはない。答えを模索している最中です。

動き始めているオフグリッド=再生可能エネルギーへの移行

現実問題として、この先、電力会社の電気が不足する事態が予想されます。
アメリカは2050年までに化石燃料による発電を現在の半分まで減らすと決めました。当初、電力会社は死活問題だとして騒ぎましたが、今はチャンスと捉えています。

電気を作る装置をリースする、機器の整備を行う、電気の過不足をコントロールするマイクロ・グリッドのマネージメントも手がけています。こうなると儲かる商売になります。
電力会社は必死になって再生エネルギーに取り組んでいます。過去にはなかったいろいろなビジネスが生まれます。これがアメリカの強さです。

革命が起きるたびに未知のビジネスが生まれてきました。

ここにある8kwの電力を生む装置は現在300〜400万円かかります。それを何年で償却するのかという、現状と比較する考え方があります。しかし、そこには未知の波及効果があり、その結果については計算しようがありません。

少し前までは、月に1000万円の電気代を使っている企業が相談に来ると、「電気代を削減したい、どれくらい削減できるか」という内容でした。
ところが今は、「予算として使える額はこれだけ。できる限りを導入したい。」と変わってきています。大きな停電を経験した北海道、東海道、大阪からの問い合わせが中心です。

KANSEIProjectsCommittee

今年9月に起きた北海道地震による全域停電で状況が一変しました。
停電によって小売業の食品被害などもあり、被害総額は1兆円超とも言われています。

また、セブン-イレブン・ジャパンが、今年5月に再生可能エネルギー、オフグリッドで半分の電気を賄う実験店をオープンするなど、時代は動き始めています。

日本政府が、2020年度以降の温室効果ガス削減に向けた約束草案として、「国内の排出削減・吸収量の確保により2030年までに2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4200万トンのCO2削減)」(環境省HPより)としたためです。

政府が大手企業にも協力を要請し、再生可能エネルギーへの移行が始まっていたところへ、北海道の全域停電で拍車がかかったという図式です。

課税によるペナルティへの対応もありますが、戦略的に進めていかなければ自然災害一つで死活問題に直面するという認識が生まれました。

ここに7店舗を展開するレストランがあり、外に大きな冷凍庫・冷蔵庫を置いていて、食材を貯蔵しています。停電になれば、貯蔵品のすべてを廃棄処分にせざるを得ません。
その対策としてソーラーパワーを活用したオフグリッドを導入しました。電力復旧まで扉の開け閉めをしないという前提で、半永久的に冷凍・冷蔵機能を維持できると考えています。

オフグリッドを先駆的に導入するということは、地域のリーダーになり得るということです。ビジネスチャンスにも繋がります。