2016/08/22.Mon. 15:15

食べ物で日本を楽しく、人を幸せに! 食材はもとより時間・空間まで操る料理人

料理人

奥田 政行さん

1969年、山形県鶴岡市生まれ。鶴岡市のイタリア料理店「アルケッチァーノ(2000年、31歳で独立開業)」ほか複数店舗のオーナーシェフ。「食の都庄内親善大使」をはじめ地域活性を推進する料理人として、日本各地でレストランをプロデュース。スイス・ダボス会議「Japan Night 2012」料理総監修をはじめ、世界各国で開催される国際的な祭典でデモンストレーションをするなど、海外でも活躍。「第1回辻静雄食文化賞」、「山形県産業賞」、農水省第1回「料理マスターズ」等、受賞多数、また講演や執筆活動もこなす。近著に『地方再生のレシピ』ほか。

Vol.2

奥田政行の「料理と空間」

どういった空間を居心地がよいとお考えですか?

一緒にいて居心地のいい人は、呼吸の“間”がよいものです。試しに、近くにいる人の呼吸を見て、わざと呼吸をずらしてみてください。とても居心地が悪いでしょう?また、人には縄張りと感じる“間”もあります。家族や親しい友人といて快適な距離感、初対面の人との距離感は違いますよね。その縄張りで呼吸を合わせると居心地がいい人、居心地がいいサービスになります。

縄張りは肘の長さで測れます。寿司カウンターは肘の長さの2倍で設計されているんですよ。寿司職人はカウンター越しに、「どうぞ」と寿司を出す時だけ、肘を伸ばして縄張りの境界線へと入ります。お客さまのおしゃべりが聞こえる距離ですが、立ち位置は縄張りの外。会話の“間”を図って、すしと一緒にすっと縄張りに入ってくるので、居心地よく過ごせるわけです。

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レストランについては?

ここヤマガタサンダンデロは、県の施設に出店という条件があり、フロアは狭いのですが、席数を確保する必要がありました。そこで、椅子とテーブルを特注しています。テーブルは肘をついても女性がいかり肩にならず、姿勢がよくなり、食道がまっすぐになる高さなので、10~11皿の料理が気持ちよく入り、愛を語り合える距離(笑)にもしてあります。

ここで“間”のいいサービスを受けられれば、居心地がいい店になります。フロアスタッフには、お客さまの言葉だけでなく、言葉の姿、その周辺の風景を見るようにと教えています。お客さまの呼吸、話すスピードやトーンに耳を傾け、仕草を見ていると、今の気分や求めていることがわかりますから。レストランについては?

庄内に新しいレストランを計画中ですね。

そこにいると気持ちが透明になる、いつの間にかリックスしているという空間が理想です。調理場の音や流れている時間がわかる音は聞こえるけれど、気にならない程度で、いい音だけが耳に届くような空間。自然な空気感が保たれて、空気のきめが細かいと感じられる空間にしたいと思っています。

建築家、音の専門家(KANSEI Project Committeeメンバー)など、こうした感性を共有できるプロフェッショナルたちにイメージを投げて、現在、細部を計画中です。まだ建て始めてもいないのに、話題になっていて、オープンしたら大騒ぎですね。

音はシェフがよく行く森の音を収録の予定です(KANSEI Project Committee音担当)。

昨年末、広島県の宮島口に、直営店「宮島ボッカアルケッチァーノ」もオープンしました。瀬戸内海に面して厳島神社を眺める、潮騒の聞こえるような店舗です。プロデュースの依頼があって、ひと目見た時から気に入っていました。紆余曲折を経て直営店になったのは神様の采配のようです。まだ看板を出していないにもかかわらず、予約がどんどん入っています。

こちらは潮騒を収録したいですね。シェフにとって感性とは?

僕が料理人の修行を始めた頃、オリーブオイルはおいしくないと感じていました。調合オリーブオイルしかなかったので。一方で、味わったことがないにもかかわらず、果てしなく遠い先に理想のオリーブオイルのイメージができていました。そして、32歳の時に「これだ!」と思える理想のオリーブオイルに出会いました。そうしたら、アルケッチァーノが繁盛店になって……。

フルマラソン42.195kmを走るのと同じで、ゴールのイメージを持って走るか、持たずに走るかで、10km、20km地点の走りも異なり、結果が違ってきます。
修行も同じで、自分の理想のシェフ像をイメージし、目の前にある問題を一つ一つ解決しながら、必ず成し遂げてきました。今は、肉体は周囲のレベルに合わせながら、志しは高く持ち、感性を共有できる人と理想を追求しています。こうして感性を磨いていくと、地球とつながる感覚があって、気持ちは軽く、肉体は若くなるようです。