心を解き放つことのできる空間にコミュニケーションをデザインする

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山内 將生さん

山内 將生さん

すみだ水族館 館長。
2011年、すみだ水族館の開業準備室長となる。2012年5月にすみだ水族館が開館し、2015年2月、館長に就任。

すみだ水族館

東京スカイツリーを見上げる複合商業施設・東京スカイツリータウン®の一角に位置するすみだ水族館は、2012年、100%人工海水で運営する都市型の水族館としてオープンしました。館内には水槽が見える位置に多くの椅子が配置され、ドリンクを片手にゆったりと寛いで過ごすことができます。居心地のよい空間づくりを追求することで、水族館に新しい価値が生まれています。
開業準備室長としてコンセプト設計・デザインに関わり、現在は館長としてご活躍の山内將生さんに話をうかがいました。

すみだ水族館とはどのような場所ですか?

日本全国には100を超える水族館がありますが、ここはその中でも、とても敷地の狭い水族館として2012年にオープンしました。

都内にもいくつか水族館がある中で、複合ビルの中にある小さな水族館という条件だけは決まっていました。展示も必然的に少ないわけです。どのような個性を打ち出すか、水族館としての新たな価値が問われていました。

試行錯誤の末、コミュニケーションをテーマに、空間そのものに体感的な要素を持たせた展示づくりや、生き物を身近に感じながら水槽の前でリラックスして過ごせる場所づくりで、繰り返し訪れたくなる施設となるようデザインしています。

水槽の中にいるような居心地のよさがありますね。

水族館には、自然や生き物に対する、私たち人間の理解が深まるような伝え方、展示のあり方が必要だと考えました。

ひとつ目が体験的な要素です。生き物に触れてみるといった体験ではなく、もっとこの生き物のことを知りたいという思いを喚起する仕掛けをデザインすること。生き物の形を紙で作ってみるなど、子どもが遊びながら、生き物との距離がグンと近づくようなワークショップも開業以来ずっと続けています。

また、空間そのものを体感的につくっています。リラックスした状態で水槽をゆっくりと眺めることができるように、館内にはたくさんの椅子を置いています。水槽の目の前に椅子を置いてあるので、心行くまで水槽の中に入り込んで生き物に見入ることができます。館内には順路の表示も生き物の解説版もありません。自由に歩き回って、自分で発見したことが知識となる、そんなコミュニケーションを企図したものです。

すみだ水族館は、多くの企業等に協力いただいて運営しています。リラックスできる空間は、香り=アロマや、光=照明、椅子、音楽など、それぞれのプロフェッショナルの提案が一体になって出来上がっています。いずれも空間を心地よくするための仕込みで、意識されない、自然なあり方で、視線は水槽に吸い寄せられるようにと。

たとえば照明は、トーンを落とした館内に、水槽だけがぼんやりと明るく光って見えるようにしています。照明やアロマは、実は季節や時間帯によっても変化もしているんですよ。

オットセイやペンギンが館内に出てくることもあるんですね!(取材中に)

あります。何時からと時間を決めず、オットセイやペンギンの体調に合わせて飼育員が連れ出します。時間を決めるとショーになってしまうでしょう。ここは生き物たちの棲み家で、人間はあくまでお客様、生き物たちが我が物顔で館内を歩くことは当たり前という考えから、ショーにはしていません。

水族館において飼育スタッフは裏方として存在するケースが多いですが、ここでは生き物たちとともにお客様の目の前で仕事をしています。
誰よりも生き物の生態に詳しく、お客様の身近にいて、質問されれば答えるだけでなく、飼育スタッフから話しかけることも仕掛けています。「ちょっとチャット」と名付けたプログラムでは、お客様が聞いて「へえ」と思えるようなちょっとした情報を短い時間でさらりとお伝えします。ライブ感のあるコミュニケーションのあり方がすみだ水族館のトーンを創っています。

クラゲゾーンの一角に「アクアラボ」というガラス張りの研究室のような場所を設置しています。クラゲを実際に飼育する様子を目の前で見ながら飼育スタッフと直接話せるようにしているのも、コミュニケーションをデザインする取り組みのひとつです。

五感についてはどのように考えていらっしゃいますか?

かつては、五感をひとつひとつに分けて考えていましたが、今は、いろいろな要素が組み合わさって感じられる肌感、空気感として捉えています。
水族館には、さまざまなお客様が来場されます。
感じ方も人それぞれ、自由にしていただく、そこから次の可能性が開けていくように思っています。

「従来とは異なる展示空間を実現した」として、2015年度グッドデザイン賞も受賞。

編集後記

「過去に誰も経験していないことを提供する」と、未来を見つめる視線が印象的でした。従来の施設のように飼育員をはじめとするスタッフとお客様を分離せず、スタッフ全員が館の雰囲気づくりの一翼を担う職場は、アルバイトスタッフまでモチベーションが高いと言います。生き物や水そのものに親しむことのできる場づくりと、そこで育まれる豊かな人間性こそが顧客満足にも、水族館の使命を果たすことにもなるとして、温もりあるコミュニケーションと寛ぎが得られるように空間をデザイン。人の思い、意見に耳を傾け、各自の持てる力を最大限に引き出す人間力は、新しいリーダー像でもありました。

すみだ水族館

東京都墨田区押上1-1-2 東京スカイツリータウン・ソラマチ5F・6F
営業時間:9:00~21:00(年中無休) ※入場受付は閉館の1時間前まで。季節による時間変更、施設メンテナンスのための休館あり