海や湖、世界の水中を舞台に第六感を研ぎ澄ませて命の輝きを表現 Vol.1

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二木 あい さん

二木 あい さん

水中表現家
1980年石川県生まれ。水中表現家という唯一無二の存在として世界を舞台に活動。すべての表現をフリーダイビング(素潜り)で行い、水中世界と人間世界の架け橋となるべく、水中世界を表現。水中映像家、水中モデル、水中プレゼンター等、これまでにない形で水中表現に挑み続けている。2011年ギネス記録「洞窟で一番長い距離を一息で行く」フィンあり100m世界女性初、フィンなし90m世界初記録を達成。NHK『プレシャスブルー』プレゼンター、TBS系『情熱大陸』など多数メディアに登場しているほか、講演、素潜りツアーなどもこなす。

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Vol.1

目には見えなくても大切なもの

水中表現家とは二木さんの命名ですか?

水中表現家とは、読んで字のごとく「水の中を表現する」者です。
映像や写真の撮影者、水中モデル、パフォーマー、ドキュメンタリーやテレビなどのプレゼンター、講演のスピーカー、素潜りを教えるインストラクターなどいろいろな方法で水の中を表現しています。

© photograph by Darren Jew

水中表現家と名乗るに至った経緯は?

もともとはドキュメンタリーなどの映像作家として水中での映像を撮影していました。
しかし、それだけでは表現しきれないと感じたのですが、他に誰もいなかったので自分自身が映像の中に入って表現しよう!と。

ただ、そうは言ってもその当時はタイトルも肩書きもない無名のフリーダイバー(素潜り者)だったので、ここで何をやったところで自分の自己満足で終わってしまう、、、と思い、世界初のギネスに挑戦しました。
子どもの頃から競泳をやっていたので、水中を泳ぐということに関しては全く違和感も問題もありませんでした。この記録挑戦は、自分が行いたい表現の一環として、そして「世界初」という肩書きを得るために自費で行いました。

ギネスに認定されたことで、TEDxTokyoのスピーカーとしてスピーチし、それがきっかけでテレビ番組『情熱大陸』に出演し、日本のメディアで取り上げられるようになっていきました。

映像作品は、WEBに掲載しているように自分自身の作品として制作しているものと、『情熱大陸』やNHKへの出演、CM制作などメディアの仕事の2種類があります。メディアにご依頼いただくものも、水中表現については私自身がゼロベースから企画提案することが多いです。

水中表現家として伝えたいこととは?

伝えたいことは、目には見えないけれど私たちは自然と繋がっており、地球の一部、自然の一部であるということ。
生まれる前、私たちはお母さんの大きな海の中にいましたよね。水中世界とは、私たちがやって来た原点だと思うんです。だから、その世界を表現することで忘れてしまった私たちの始まりを思い出し、さらには言葉が必要ない世界だからこそ心に届く「何か」を感じていただきたいと思っています。

水中は言葉が通じない世界であり、騙すことはできない世界。自然環境、動物とストレートに向き合わないといけない場所です。
自分の肺のみが頼りの素潜りを使って水中表現をしているのは、彼らと同じように潜ることで動物と自然体で向き合えるからです。最初は、タンクを背負って潜るスキューバダイビングで撮影していたのですが、息を吸う時に大きな音がし、息を吐く時はブクブクと空気の放出音と共に泡も出てしまうので、動物は逃げていってしまいます。水中では呼吸が出来るので長く潜れ観察はできますが、いつも何だか疎外感があり何だかそれでは、違うな…と違和感を感じていました。

水中の哺乳動物と同じく、息を止めて水中に潜ると、彼らは私を自分たちとは違うけれど、水中に住む新たな生き物なんだと認識します。そうして彼らが落ち着きリラックスする事で、とても自然な姿の動物と一緒の写真だったり映像だったりが撮影できています。

自然世界、水中世界の一員となった写真や映像。動物が興味深そうにこちらにやってくる作品、動物だけではなく人間である自分自身が被写体として画の中に入ることで、より水の中の世界が身近になり、親近感がわき、感情移入もしやすいのではないか、と思います。
頭で考え「こうしよう」「ああしよう」としても、心が「そうだ!」と思わなければ何も変わりません。感動こそが、変わるきっかけになると信じています。何かが変わる時とは、感動した時です。私の活動、私の水中表現がそうした何かが変わるきっかけ、種になれれば、、、と思っています。

© photograph by Darren Jew

ギネスに挑戦した映像など、水の中で凝縮した時間を過ごされていますね。

ギネスの映像は、6台のカメラを使用し、色んなアングルのカットがありますが、1台はスタートからゴールまで私を追っかけて撮影していて、ノーカットです。映像が約2分、実際に素潜りしていた時間のままです。水の中での時間の感覚は短くもあり長くもあります。電車などでうたた寝した時のように、一瞬だった様な、ず〜っと長い時間だった様な、、、不思議な感じですね。

水中では陸上の4倍速く振動が伝わります。そのため、左から発せられる音も左右同時に音が届くので、音がどちらの方向から響いてくるのかわからず、全方位から一度に押し寄せてくるような感覚がします。

何も対象物がない青い水の中では、バーティゴと呼ばれる上下の感覚がなくなる瞬間もあります。陸上での空間の定義が水中では当てはまらないので、水中での表現は無重力の宇宙を表現していることに近いのかも知れませんね。

一人で居たとしても、陸上は人の視線があり人々の中の自分を意識してしまいがちです。水中では、マスク(水中めがね)を付けているので視野が狭くなるのもありますが、自分対自然というシンプル、直球な状況になります。
“気”も波動ですから、陸上にいるよりも早く伝わりますね。

日本にいる時には、ヨガをなさっているとのことですが、潜るためですか?

潜るために限らず、自分自身のコンディションを整えるためです。
身体も整えていないとサビが溜まっていってしまうので、普段から整えることは大切だと考えています。

頭と心と体、3つのバランスを健全に保つことで、やりたいことができる状態になる。私の場合は表現が可能になり、最高のパフォーマンスができる状態になります。

ヨガやキックボクシング、サーフィンなど、いろいろなことをやってみて、全く別ものと思われるスポーツでも根本は、実は同じものを内在していると毎回感じています。
私は何か興味があると、とりあえずやってみないと気が済まない質なので、呼吸法を習いにインドへ1か月行ったこともありました。

ヨガの呼吸法の先生は87歳と高齢でしたが、お元気で常にニコニコ笑顔でした。
呼吸は生まれてから死ぬまで、途切れなく行っている唯一のことです。本当はとても大事なことですが、常に当たり前に行っているので、その大切さ、繊細さ、重要性など、なかなか気が付きません。ヨガでは「プラーナを通している」と言い、見えないからこそ大切でありパワフルなものでもあるので、きちんと行う必要があると教えられました。

当たり前ですが、水中の生物は私たちの言葉を話すことはできません。彼らとコミュニケーションをとるために大事なのは何なのかを突き詰めていくと、目には見えない“気”に行きつきます。

ヨガ、そしてインドでの呼吸法を通じて、目には見えないからこそ大切なコトを明確に理解できたことが一番の収穫でした。

vol.2に続く…