幸せを彩る世界に唯一のウエディング装飾から 日々のインドアグリーンまで植物と共に生きる Vol.2

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宮永 英之 さん

宮永 英之 さん

フローリスト
1971年、東京生まれ。1989年、株式会社ゴトウ花店(現:ゴトウフローリスト)入社。2002年、ゴトウフローリストの公認デザイナーに就任。2003年、帝国ホテルの店長に就任。2011年、ゴトウフローリストを退社し、海外にてウエディング装飾のプロデュースを開始。海外の雑誌『i Fruel』にて1年間、作品を連載。2013年、日本帰国、ANIMUS FLORAL DESIGN設立。

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Vol.2(後編)

人間の暮らしは植物とともにある、共存の意識が大切

フローリストとして大切にしていることを聞かせてください。

植生を活かすことです。

今、テーブルにのっているのは、ニュージーランドの植物です。北半球と南半球ではまるで植生が違います。

僕の頭の中には、世界中の何千種もの植物の品種と時期のデータがはいっています。ウエディングやイベントなどは、3か月先、半年先の当日に旬を迎えているであろう花を提案する必要がありますからね。
データは年々更新されていくので、週に3回は市場に行き、新しい品種が出回っているのを確認しています。

グリーンにしても、花にしても、それぞれ表情が違います。どの花とどの花を合わせるのか、どんなグリーンを合わせるのかを考えるのは楽しいものです。何千種もの組み合わせがあることだけでも、無数の可能性を秘めています。
日本は四季の美しい国で、誰もが季節を感じ、旬を愛でる心を持っています。その時期にしかない植物を使う事で鮮やかに季節を感じることができます。

HPにも記載しているとおり、オーダーの際には「ストーリーを聞かせてください」と申し上げています。例えば花束は、いつ、どんな場所で、どのような想いで贈りたいのかを聞くことで、使う花やイメージ・デザインを決めていきます。

インドアグリーンデザイナーとしても活動されていますね。最近はオフィスに緑を取り入れる動きが活発になっていますが、どのように感じていますか?

オフィスに緑を置くのは、すごくいいことだと思います。リラックス効果が得られたり、空気清浄になったりしますので。
しかし、植物を置く際には、世話をするルール作りが必要です。

植物は愛情をかければ、目に見えて元気に育ちます。
丸の内の、とあるオフィスでは、受付に置かれている植物の水やりを受付スタッフが持ち回りで行うことにしているそうです。しっかり世話をする体制が組まれているここの植物は、2年以上経ちますが、生き生きと成長しているのを見ることができます。
スタッフの方たちの愛情を感じますね。

グリーンと花では違いますか?

もちろん観賞用植物のグリーンと花は、違う視点で見ています。
フラワーデザインで扱う切り花は、命の限られたもの。つぼみから開花、散り際へと変化する過程を楽しむ贅沢です。凝縮された時間、人生の縮図のような感覚を植物から感じられると思っています。

一方、グリーンは人間にとってパートナーです。自分と一緒に成長していく存在として認知する必要があると考えます。

オフィス環境を向上させる動きとして、インドアグリーンデザインの仕事をいただきますが、グリーンにとって最も大切なのが環境です。植物は成長していきますので、環境に適した植物を選ぶこと、もっと言えば、建物を設計する時からグリーンを置くことを前提に、外の光が当たる空間を用意しておくことが一番良いと思います。

よく「枯らしてしまうんだよね」と言う人がいますが、植物と人との関係性に気づけていないのだと思います。植物が生きているという当たり前の感覚が希薄になってきているのかなと。

どんな生態なのかを責任をもって理解すること、ペットをかわいがるのと同じように、人間が意識を変える必要があると感じています。

オフィス等では、グリーンのレンタルもありますね。

植物には日光が当たることが必要です。専用のライトもありますが、日光が当たらないと植物は弱っていきます。レンタルの場合、定期的なメンテナンスを行う事で植物の異変に気づき、専門のスタッフが適切な処置を施します。オフィスで働く人たちの負担も軽減できるシステムになっています。

家庭やオフィスでも鉢植えの植物が弱ってきてしまったけれど、どうしていいかわからないという時に、植物を持ち込める“病院”のようなグリーン専門の施設があったら良いなと考えます。近い将来、そんな場所ができることもあり得ると僕は思っています。

篠笛日和(舞台装飾)

宮永さん:篠笛のコンサートでの舞台装飾。5mの笹付きの竹を100本使用。幻想的な空間を演出しました。

最後に、フローリストとして五感について思うことをお聞かせください。

都会の街路を歩いていても、人は、木々を渡る風の音を聞き、木漏れ日のきらめきを眺め、咲き誇る花の香りに季節の移ろいを感じて生きています。梅が花開けば、馥郁とした香りに、「どこで咲いているんだろう」と、思わず花のありかを探すでしょうし、色とりどりの花が咲いているのを目にして晴れやかな気持ちになったりしますよね。

人間も植物も大地なしには生きられません。人間は植物を“よりしろ”としてあがめたり、薬として利用したりしてきました。神前に榊をお供えする、オリンピックの勝者にオリーブの冠を贈るなどが象徴的です。

自然が減っていることや地球温暖化は植生に大きな影響があるので、危惧しているのですが、人もまた生かされているので、植物に影響があれば、人にも影響します。人にとって植物は欠かせない存在です。感謝の気持ちを忘れず、植物を尊重し、共に生きる意識を持つ必要があると思っています。

編集後記

宮永さんのアトリエANIMUS FLORAL DESIGNには、前日に雑誌撮影用に作ったというフラワーデザインや、実験中だというアジサイのドライフラワー、ニュージーランドから輸入されたというユニークな植物、シルバーブルーニアやバーゼリアが置かれていました。フローリストは職人でありアーティスト。作品は華やかですが、空間デザインでは徹夜になることもあるそうです。植物へ向けられる視線と言葉に、私たちが忘れてはならないことが詰まっていると感じられる取材でした。