ストレス社会を解決し、人と人、人と自然を深いつながりへと導く空間デザインを探求 Vol.1

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オリバー・ヒース(Oliver Heath)さん

オリバー・ヒース(Oliver Heath)さん

建築およびバイオフィリック・デザイナー
建築およびインテリアデザインにおいて、人と自然のつながりを深めるバイオフィリック・デザインの世界的エキスパート。その作品は建築環境、書物、メディアで多数発表されている。またBBC、ITV、Channel 4、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネル等、多くのTVメディアに出演。最新の著書『Urban Eco Chic (Quadrille)』は8か国語に翻訳され、3万部以上販売されている。
英国のエネルギー・気候変動省(DECC)、エネルギー・セイビング・トラスト(EST)、廃棄物及び資源行動計画(WRAP)のスポークスマンを務め、現在はインターフェース社のバイオフィリック大使。

健康で快適な暮らしと社会に着目し、人と自然とのつながりを深めるバイオフィリック・デザインを推進しているオリバー・ヒース氏に話を伺いました。KPC(KANSEI Projects Committee)のパートナーである同氏に、日本滞在わずかに2日間というタイトなスケジュールの中でしたが、充実した話を伺えました。

聞き手は、KPC柳川舞と宮内翔。

その1
空間デザインの新たな視点
バイオフィリック・デザイン

舞:まずは、どんなことをされているか教えていただけますか?

オリバー:オリバー・ヒースと申します。オリバー・ヒースデザインというデザイン会社を運営しています。健康とウェルビーイング(身体・精神・社会的に良好であること)に着目し、人間中心のデザインに特化しています。中でも生活の場や職場で、どのように人と自然のつながりを深めるかというバイオフィリック・デザインを推進しています。
 
デザイン会社なので私たちはデザイナーとして空間を創ります。
当社ではリサーチャーが調査データを収集し、まとめています。調査の主な目的はエビデンスに基づいた研究を取り入れることです。過去30年間は、私たちの取り組みを広めるために環境心理学者とも一緒に活動してきました。
人間を中心に置くアプローチとするために、リサーチを3次元、すなわち実際の環境に適応させてきました。
 
空間は人々に多大な影響を与えると確信しています。デザイナーとして、ストレスを軽減し、精神的・身体的な回復をサポートできるよう、私たちの生活に不可欠な建物という空間を、人々がベストを尽くせるデザインにしなければならないと考えています。

舞:デザイナーになろうと決めたのはいつ頃ですか?

オリバー:デザイナーになろうと決めたのはかなり若い頃です。10歳頃でしょうか、建築を勉強したいと思っていました。
 
海のそばの都市、イギリスのブライトンで育ち、13歳のときにはスキューバダイビングをしていました。18歳の頃はサーフィンのインストラクターをしていたり、スキーのフォトグラファーもしていました。自然とつながっているのが当たり前でした。
建築を6年勉強し、最終的にはユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで学校建築を学びました。
その後、展示会や舞台芸術のデザインを経験して、1998年に自身の会社を設立しました。
 
1998年、今から21年前になりますが、イギリスのテレビ番組と仕事を始めることになったのです。不思議ですね。
 
数々のテレビ番組で、800万人の聴衆に対しサステナビリティについての話をする機会を得ました。それ以降、公共の場においてサステナビリティの話をすることは私のミッションとなりました。

この8年をかけて、すべての物質がガスや電気から来ているという炭素中心のサステナビリティを、人間中心のアプローチへと切り替えてきました。
どうすればデザインを「良いこと」のために使っていけるか、建物内で人々がよりよく感じられるデザインをするか、議論の先には健康と幸福があるという意味で、私たちの取り組みは似ていると思います。

舞:バイオフィリック・デザインという言葉を初めて耳にしたのはいつ頃ですか?

オリバー:おそらく8、9年前だと思います。

舞:どなたからですか?

オリバー:バイオフィリック・デザインの先駆者の一人スティーブン・ケレート氏の研究を通してです。彼の研究論文を読み始めて、私には意味があると思いました。
自然の中で育ち、建築を学んだものにとって、これらのものを一緒にするというのはとても意味のあることでした。
 
さらに読み進めると、バイオフィリック・デザインは建物と人間との関係性を考えるうえで良いものであるということが、研究・証明されていて、その必要性がさらに深く理解できました。ただ単にステキな素材を加えるという話ではなく、よりよいスペースの創造に欠かせない視点でした。
 
自然の素材、植物、緑、水の使い方など、自然の活用法は実はたくさんあります。また、面白いことに、私たちが選ぶ素材の多くは建物の中にいる人々の身体に良い影響をもたらします。
バイオフィリック・デザインと建物が人間にとって良いものであるという私の信念は、実際に研究で証明されていることがとても魅力的でした。
 
イギリスで初のバイオフィリック・デザインの専門家になるため、私のコミュニケーション能力とこれまでの仕事経験を活かそうと決めました。
 
そして、私は7年前にもイギリスのテレビ番組で働けるという幸運に恵まれました。
600万人の視聴者に対し、国営放送で初めて、バイオフィリック・デザインについて話す機会を得ることができたのです。
 
すると、多くのジャーナリストから質問を受けました。
「私は25年もジャーナリストですが、バイオフィリック・デザインについて聞いたことがないのです。なぜでしょうか。それはいったい何なのですか?」
 
私は世間がバイオフィリック・デザインに強い関心を持つことに気づきました。しかし、知識を持つ人は多くはありませんでした。そこで、関心を持つ人たちと話を始めました。
インターフェースなどと、その時から一緒に仕事を始めたのです。
レクチャー、セミナー、ワークショップを開催してみると、建築家、インテリアデザイナー、施設マネージャー、人事担当者、CFO・・・たくさんの人がバイオフィリック・デザインについて知りたがりました。
 
5、6年前には、イギリスでこの話題が注目を集めました。単なる話題から、人が「絶対知っておくべき」知識へと変わったのです。しかし、依然として情報は不足しています。
 
そこで、オリバー・ヒースデザインでは、バイオフィリック・デザインやそれとは違った方法も含めて、自然とのつながりはどのように人々の心のあり方を向上させるのか、どのように人々の心を一つにまとめるのかという命題の発展に重きを置くことにしました。

舞:植生、栽培などの自然に詳しい人と、デザインを専門とする建築家やデザイナーといった2種類の専門家が存在しますが、バイオフィリック・デザイナーになり得るデザイナーはこの先、イギリスで出てきますか?

オリバー:多くの人々がバイオフィリック・デザインに関心を持ち始めています。これは良いことで、彼らはバイオフィリック・デザインという価値を提供する側の一人になる可能性があります。
インテリアデザインはしばしば、ブランドアイデンティティや権力、富を表現するため、不必要で余剰なものとみなされます。しかし今、インテリアデザインは “人間中心”の空間デザインを考えるうえで、実はとてつもなく価値があるもの、一般に考えられているよりはるかに重要なのだと伝えています。

建築家や建物の居住者に良い価値を提供できる空間は、顧客にも大いなる価値を提供し、コストをも削減できるという特徴があります。離職者が減り、働く人々の緊張が和らぐ建物には価値がありますね。
人々がより生産的にクリエイティブになれる空間、人同士の関わりが深まり、評価されていると感じるようになる空間です。いくつもの価値があることを伝え始めたら、多くの人が興味を持つようになりました。
そこで、自然素材のこと、植物からバイオフィリック・デザインのアイデアを得る方法、それらをどのようにまとめるのかについて、関係者を教育する必要に迫られました。

舞:日本とイギリスの間で類似点はありますか?

オリバー:バイオフィリック・デザインの何が面白いかというと・・・。いわゆる「ユニバーサルデザイン」として、人と自然がつながる点です。自然素材が、人のストレスを軽減し、ストレスで疲れた心身の回復を促す手段に使われます。どんな人にでも意味のあるデザインであることが興味深いと思っています。あなたがどこにいようとまったく関係なく、自然とつながれるのです。

重要なのは、文化の違いや宗教の違いによって、人は異なる形態の自然、異なる感覚、異なる音、異なる木や素材とさまざまなつながりを持っていることを理解し、そのすべてを尊重することです。要するに、住んでいる環境や、そこに住む人々にとって重要なことを理解したうえで、バイオフィリック・デザインを、勤務地などストレスを感じる場所に導入するのです。人々の感性は、文化にも地理にも関連していると思います。
根底には、自然界のあらゆる種族は、自然を享受しているという基本的な事実があります。私たちはそのつながりを強めなければなりません。

私は、建物と自然、その二つを別々のものだは言っていません。機能性の高いよりよい場所を創りだすこと、デザイナーとして価値やサービスを提供する手段として、自然の感覚を「忙しい」「騒がしい」「都会的な」場所に、もたらす必要があることに気づかねばならないと言っているのです。

イギリスと日本には確かに違いがありますが、この違いは厳密に言えば、地域の決まりごとなどの伝統、文化、地理的状況の違いであると思います。

舞:類似点についてもう少しお話いただけますか?

オリバー:多くの国が歴史的に自然との深いつながりを持っています。おっしゃるとおりイギリスにはガーデニングの文化がありますが、スウェーデンやノルウェーなどに行くと、日本のようです。どちらも森林の国という点で。
 
自然、森、その他の自然素材などとつながりのある国にはいくつかの類似点が見られます。スカンジナビアのデザインやオリエンタルな日本のデザインには森や自然界への深い感謝が見られます。そうした感謝は、デザインから受け取る情報、耳にするものや、それを目にした時に手に持ちたいと思える感覚、素材の質やシンプルさに対して向けられ、私たちはそれらの要素をあらゆる感覚器官で受け取ることができます。

先ほどはイギリスと日本の類似点について話しましたが、イギリスではガーデニングはより重要、日本にはたくさんの木々があるので、どちらかというと森林の国と言えるように思います。
驚くことに、東京は一国の首都としては一人当たりの木の密度が最も高いのです。こうなった歴史を参考に、自然を取り入れる方法を見つけなければなりません。
 
東京は、一見、無秩序で、とてもうるさく、せわしないですが、よく見ると木があり公園があります。周りを見渡してみると、オリンピックのデザインなど、東京をより住みやすく静かで素晴らしい場所にするために、自然とのつながりを高めるためのデザインがたくさんあります。