食べ物で日本を楽しく、人を幸せに! 五感を使った独自の料理法で地方再生まで
奥田 政行さん
1969年、山形県鶴岡市生まれ。鶴岡市のイタリア料理店「アルケッチァーノ(2000年、31歳で独立開業)」ほか複数店舗のオーナーシェフ。「食の都庄内親善大使」をはじめ地域活性を推進する料理人として、日本各地でレストランをプロデュース。スイス・ダボス会議「Japan Night 2012」料理総監修をはじめ、世界各国で開催される国際的な祭典でデモンストレーションをするなど、海外でも活躍。「第1回辻静雄食文化賞」、「山形県産業賞」、農水省第1回「料理マスターズ」等、受賞多数、また講演や執筆活動もこなす。近著に『地方再生のレシピ』ほか。
- アルケッチァーノ
奥田シェフの発想は、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を研ぎ澄ませてモノ・ヒト・コトの本質を知ることから始まって独自の哲学となり、時間・空間のプロデュースにまで進化していきます。
Vol.1
奥田政行の「料理と時間」
料理人、飲食店オーナー、地域活性の仕掛け人として活躍されているシェフが大切にしていることを教えてください。
僕が一番大切にしている軸は料理人であることです。
円を描いて人間関係をとらえ、スタッフにも見せているのですが、その中心にあるのが料理。家族とスタッフはその次です。妻にも「妻と料理とどっちを取るの?」と聞かれたら、「料理を取る!」と言ってあります(笑)。家族とスタッフは同じ位置で、息子にも「キッチンに入ったら仲間と認める」と言ってあります。
料理さえあれば、世界中どこへ行っても生きていけます。シェフ奥田政行としての存在価値が料理であり、料理をすることで家族を守り、人を幸せにすることができますから。
次に大切にしているのは、自分の存在で周りを幸せにすることです。何の交換条件もなく、周りを幸せに、笑顔にすることが、結果的に自分が幸せになることだと確信しています。
ギブ&テイク、交換条件で成り立つ関係は2000年で終わりましたね。
植物は鳥や動物に「食べてもらう」ことから始めて、生き延びています。これからの時代はいろいろな意味で「食べられるもの(提供できる能力)」を持った人勝ち。僕自身もそういう存在でありたいと思って、実をいっぱいつけられるよう、日々精進しています。
KANSEI Project Committeeでは、人間・時間・空間の3つの間と五感を扱い、“間”の中に心地よさがあると考えています。
居心地のいい人も“間”がいいですね。
日本の食材と食文化を海外にも紹介する活動の中で、ローマ法王やダライ・ラマにお会いする機会にも恵まれましたし、料理をすることでいろいろな人と巡りあってきましたが、一流と言われる方々は一緒にいて呼吸が楽だと感じます。そういう方々は、対面している相手の呼吸を見てとり、話すスピードやトーンを自然に合わせているためです。
逆に、呼吸が合わない、間が合わない人と一緒にいると居心地の悪さを感じるものです。
先日、ラジオの収録で話の間を考えず、矢継ぎ早に質問をする人と会話をしていたら、生まれて初めて呼吸困難に陥りました。息を吐く間も、吸う間もなくて……(笑)。
料理と時間についてはいかがですか?
味覚も時間で判断しています。アタック5秒後、10秒後と。
アタックは食べた瞬間、3回噛んで5秒、飲み込む瞬間が10秒後です。どう変化するのかを味覚のラインとして把握し、合わせる食材を考えます。
たとえば、最初の5秒間にえぐ味が感じられる食材には、辛味が6秒続く食材を合わせます。舌が感じとるのはより強い辛味だけで、えぐ味は辛味の影に隠れます。時間によって変化する味のラインで、合わせる食材を考えるわけです。
料理と時間は実に密接な関係があって、食べたものは温度変化によって香りも変わっていきます。冷たいものを口に入れると、温度の上昇に伴って香りが変わるので、そこを考慮して料理を考えるのです。
僕、時間を自分の身体に取りこむために、毎日1分間、お風呂に潜っているんですよ。昔は3分潜ってましたけど(笑)。1分間は60秒、1秒の感覚が身に付くことで、味覚ラインを分析したり、周囲にいるスタッフそれぞれの動きを把握しながら、彼らの3倍のスピードで動くこともできるようになります。免疫力も増すようです。
「時間を料理」したメニューもあるとか…?
北海道新幹線の開業に合わせた新店舗「みそぎの郷きこない」のレストラン「どうなんde’s Ocuda Spirits」のプロデュースで、時間を使って料理することを考えました。木古内町や道南各地の食材を、塔のように重なる皿を考案して盛り、テーブル上で焼きながら食べるというものです。
一番上の1つ目の皿にはシシャモ。シシャモを裏表焼くには7分ほどかかります。シシャモが焼けるのを待つ間に、次のカップを開くと刺身。刺身を食べる時間は3分ほど。次の皿には薄切りのホタテが2枚。ホタテを焼き、次の皿から出てくるブロッコリーとアンチョビの冷たいソースに熱くなったホタテを付けて口に含むと、パッと春の香りが広がる。次に焼きあがったシシャモを、白菜のサラダと合わせて味わう……といった仕掛けです。
大好評で人口4500人の町のランチに毎日100人訪れるという現象が続いています。
とてもユニーク。食べてみたくなりますね。
世の中に今はないものを創造できる人が天才。天才とはゼロ(0)からイチ(1)を創り出す人で、自分一人でカタチにまでできます。それに対してプロフェッショナルは、80%以上を成し遂げられる人です。
物事や企画は80%までは皆でワイワイ言って進んでいきますが、そこで止まってしまうことが多々あります。その中にプロフェッショナルがいると、その先がパパッと進んで完成します。そういう人が秀才であり、プロフェッショナルだと思っています。
僕は、天才と秀才、プロフェッショナルを目指しています。創造する力と高い完成度でカタチにする力を身につけたいと思って努力してきましたし、今も、これからも努力します。
人間がつくりだしたすべての物に“想い”があります。無機物の食器も、作者の“想い”の化身としてこの世に具現化されたものです。紙コップ、飛行機、フォーク&ナイフや姫路城も、すべてはその時代に必要とされて生まれています。
たとえば、紅茶カップは、繊細な味と香りを楽しめるように広くて浅いカタチをとり、モーニングコーヒーのカップは、朝ゆっくりと熱いコーヒーを楽しめるように厚くて深いカタチに。すべてが心の化身です。視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を駆使して、その“想い”を知ることを大切にしています。
スペシャリテを持つ料理人は多いですが、僕の場合は、時間によって変化する味覚ラインと香りを分析して味を構成するので、常に目の前に現れた新しい食材で新しい料理を創ることができます。
この能力を磨こうと、各地を巡り、自分を追い込み、挑戦を続けてきたわけです。独自の体系的な料理理論を持っています。
Data
奥田政行の庄内イタリアン「アルケッチァーノ」
庄内カフェ&ドルチェ「イル・ケッチァーノ」
みんなで創る山形イタリアン「ヤマガタ・サンダンデロ」ほか