“才能に障害はない”として雇用に取り組む パソナハートフルに、幸せな働き方を学ぶ
株式会社パソナハートフルより
相澤登喜恵先生:アート村チーム アーティスト指導(写真 左から2番目)
千田貢美加さん:アート村チーム チーム長(写真 左から3番目)
岡田清香さん :パソナハートフル営業(写真 左から4番目)
パソナハートフルの現在の活動には、「受託業務」「アート村」「アート村工房」「ゆめファーム(農業)」「パン工房」「コンサルティングサービス」の6部門があります。
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聞き手/柳川舞:KANSEI Projects Committee副理事長 エアアロマジャパン代表取締役
Vol.1
障害者をアーティストとして雇用する取り組み
柳川:本日は、私どもKANSEI Projects Committee(以下、KPC)との対談に応じていただきまして、ありがとうございます。
KPCでは、感性を活かせる社会、感性を生かせる企業文化の醸成が必要だと考えています。
一人ひとりの能力、感性、個性を伸ばすことが生産性を上げることに繋がるのではないかと想定して調査、研究を行い、その成果を商業的に活用することで、社会に貢献しようと活動しています。
しかし、現実は、失敗を許さず、最短の時間で効率を求めている結果、そこにいる人々は、できるだけ何も感じないように、感性を閉じて生きています。
働き方改革が叫ばれているのも、人口が減っていくなかで生産性を上げることが目的の一つだと思いますが、出てきている施策は時間を削ることに終始しています。
皆さん、問題は感じていますが、解決策となると見当もつかないという状況にいます。
パソナハートフルの活動には、社会が抱える問題点を解決するヒントがたくさんあるように感じ、この機会を楽しみにしてきました。
それでははじめに、パソナハートフルの企業文化と活動についてお話いただけますか?
千田:長くなりますので、ざっくりご説明しますと、パソナハートフルの母体であるパソナグループは「企業の問題点を解決する」を企業理念に42年前に創業し、育児を終えてもう一度働きたいと願う家庭のお母さんたちに、社会人時代の能力や技術を活かすことのできる適切な仕事の場をつくりたいという想いで人材派遣事業を始めました。
その枝葉として、前身を含めると1989年から障害者雇用の問題を解決することに取り組んでいるのがパソナハートフルです。
そもそもはオフィス事務の受託業務からスタートし、グループ企業から、請求書の発送や、名刺管理、各種資料などの印刷業務を請け負っていました。しかし、こうした事務作業は例えば文字が読めなければならないなど、重い障害のある障害者、特に知的障害者にとって、できる業務が限られるという問題に突き当たりました。
その解決策を探っている時に、当時、イギリスのチャールズ皇太子が設立した財団が、障害のある方々のアート制作により社会参加をバックアップしていることを知り、日本でもアートを通じた障害者の雇用創造ができるのではないか、とパソナハートフル社長の深澤が考えたのです。
そして1992年には、“才能に障害はない”をコンセプトに、働く意欲がありながら、就労が困難な障害を持った方々のアートによる自立を目指して、アート村をスタートしました。
初めは、作品をお預かりして展示会を開催し、売れると、ほぼ全額を本人にお返しするという活動でした。ただそれでは恒常的なサポートにはなりません。
そこで制度を検討し、アーティストとして雇用することにしたのです。
アーティストは、勤務時間に出社し、業務として絵画制作に取り組みます。
完成した作品は展示会で販売するほか、アート素材として活用し、クリアファイルや絵葉書、スマートフォンケースなどに商品化もしています。
また「アート村工房」では、手先が器用な障害のあるメンバーがアーティスト作品のカードの裁断や封入、シューキーパーや手提げ袋などの縫製やプリザーブドフラワーなどの製作を手作業で行っています。
こうした経験を通して、それぞれの障害特性(=才能)を活かせばさまざまな業務ができることがわかったため、ほかに、農作業の「ゆめファーム」や「パン工房」と部門を広げてきました。
会社にある既存の仕事に就いてもらうのではなく、それぞれの特性(=才能)を活かせる業務を社内に創ってきたのが、パソナハートフルの障害者雇用の特徴だと思っています。
さらに現在では、私共の経験を踏まえ、障害者雇用を積極的に取り組もうとされている企業様に、障害者雇用の相談や研修、人材紹介・セミナー開催などの「コンサルティングサービス」を提供しています。
また、企業向けのオリジナルグッズや記念品を開発・販売することで、障害者支援をCSR活動につなげていく提案もしています。
柳川:障害者の特性を活かした仕事を創る一方で、障害者の感性に着目してアーティストとして雇用するという考え方は新鮮でした。
「才能に障害はない」をキャッチフレーズにされています。
どんな障害を持った人にも才能はあると見ているのでしょうか?
相澤:私は少し違います。知的障害で絵画の才能がある人々、現在、アーティストとして雇用している人々の多くが自閉症の人々です。
「才能に障害はない」というのは確かにその通りなのですが、自閉症に限って言えば「障害が才能を生む」と考えています。
色遣いもラインも彼らでなければ生み出せない、驚くべき才能を持っています。
柳川:平昌オリンピックで金メダルに輝いたフィギュアスケート男子の羽生結弦選手が「怪我をしていなかったら金メダルは取れなかった」という発言をしていました。
才能があればこそですが、困難を乗り越えたからこそ磨かれるということもあるのではないかと感じました。
アーティストを指導している相澤先生はどう感じていらっしゃいますか?
相澤:ここで働くアーティストたちの多くが、いじめられた経験をもっています。
皆と同じでない、同じようにできないということから、過去にいじめられ、否定された経験のある子もいます。
ここでは、お給料をいただいて絵を描いていますから、社会人として守るべきことはちゃんと理解してもらっています。来客には必ず挨拶をするとか、出社時や帰宅時の挨拶、仲間に敬意を払うなど、きっちり折り合いをつけています。
しかし、絵画については、私は彼らの表現方法を全面的に支持しています。
柳川:こちらのアーティストのひまわりを描いた作品を拝見しました。
同じアーティストが学校に通っている頃に描いたという絵と比べて見せていただいたんですが、まるで違っていました。
かつての絵は画一的な、ひまわりとはこう描くものだというありがちな絵だったのが、個性的な作品に変化していました。
通常は、さまざまな技法を学ぶことによって上達すると考えられているように思うのですが、真逆に、才能を解き放つことによって個性的な作品が完成しているようです。
相澤:「障害者なのに、こんなに上手なんですね」とか「健常者が描いたみたいに上手」だと言われたら、私は失敗だと思っています。
健常者が描く絵を目指しているのではなく、彼ら独特の表現方法によって描かれる作品にこそ価値があると考えていますので。
もう一つ「自由に描いてください」とも決して言いません。
「自由に描く」という表現に、すでに一定の概念があるからです。
自由と言いながら、まるで自由でないという結果になります。
私はむしろ、不自由と制約を適度に与えることで伸びるような気がしています。
不自由と制約とは、絵画の課題であったり、画材を指定することだったり。
この子なら乗り越えられると確信がある時にすることですけれどね。
柳川:アーティストを指導している立場で問題だと感じていることがありますか?
相澤:この先、問題になってくると思っているのが、アーティストの加齢による消耗です。
アーティストたちは障害による特性で、驚くべき集中力で作品に向かいます。
その分、消耗も激しいのでしょう、45歳を過ぎるあたりから顕著に老化が見え始めます。
20代後半のアーティストは、脂も乗り切っていて、いいんですね。
しかし、加齢によって集中力がなくなり、持続できない、絵が描けないという状態に入っているメンバーも出てきています。私たちには想像のつかない疲れを抱えているように思います。
柳川:そうなったアーティストにはどのような対処を?
相澤:今のところ、ご家族のサポートを受けながら描いてもらうという方法をとっています。
お給料をいただくことの対価として作品を描いてもらっているので、どうすれば作品を仕上げられるのかを考えた結果です。
企業としては、今後の課題になってくると思います。
柳川:定年退職の時期などの雇用条件も御社規定の通りなのですか?
千田:働き方は、定年も有給休暇も、障害者と健常者はまったく同じです。
加齢に伴うアーティストのサポート方法については、今後、考えていく必要があると思っています。
Vol.2
絵を描くことで世間に認められ、自信もつけば、思いやりも生まれる
柳川:アーティストとして働くことで、個々の変化はありますか?
相澤:それはもう顕著にあります。
癇癪を起こしたり、泣きわめいていた子が、本当に穏やかになっていきます。
それは、自分の存在を認められているからなんです。
先日、アーティストたちを1対1でインタビューしてみる機会がありました。
「何か嬉しかったことはある?」と聞くと、かつて癇癪持ちだった子が、
「あるんだ。おじいちゃんが僕の絵をいっぱい買ってくれた」と、答えてきました。
おじいちゃんに認められたことが、何よりも嬉しかったんですね。
その話をお母さんにしたところ、嬉しいとか、ありがたいという話を彼がすること自体が考えられないと驚いていらっしゃいました。
私は「この子は優しいですよ」と断言しておきました。
千田:当初は「少しだけ残業をしましょう」と声をかけるだけで、パニックになって大騒ぎだった子が変わりましたね。
相澤:先週もアーティストたちが絵を描いているアトリエで、椅子と椅子の間をすり抜けながら、「私、デブなんです。通してね」と声をかけていたら、その子が「デブじゃない!」って、否定してくれていました(笑)。
優しさですね。変わったなぁと思います。
千田:アーティストたちに作業場所を移ってもらうということが、時々あります。
パレットを持って移動する子が、道具を落としてしまうということが何度かあったんですね。
すると、その子はパレットを持ってあげるという行動をとるようになりました。
かつては他人の立場に立って、他者のサポートをすることは一切なかったので、本当に変わりましたね。
相澤:他人のものを触るとか、触られることを、自閉症の人は極端に嫌う傾向があります。
本来は、他人の持ち物を触るなんて考えられない様子なんですよ。
千田:絵を描くことで社会に認められた経験に、自信もつけば、自我にも目覚め、さらには他人を思いやる気持ちも生まれたということだと思っています。
柳川:「企業の生産性を上げる」をテーマにしたセミナーを担当させていただくことがあるのですが、まったく同じですね。
健常者は言葉でコミュニケーションがとれるので、そこまで顕在化はしていませんが…。
自分自身を認められない人は、どれほど能力が高くても、どこに行ってもなかなか満足しないという傾向があることがわかっています。
千田さんはアート村のマネジメントをする立場で苦労されることはありませんか?
千田:問題を感じた時には、声をかけるように心掛けています。
集中力のないアーティストが一人でもいると、微妙な空気感で、他のアーティストにも影響していくんですね。そんな時は、なぜ描きたくないのか、きちんと話し合います。例えば、体調が悪いのか、本人のやる気の問題か、何か心に問題を抱えているのか。少しでも小さなサインを見逃さないよう、心掛けています。
柳川:同じアトリエで作業をしているアーティストに一体感のようなものはあるのでしょうか?
千田:絵を描くことは個人プレイなので、特別にはないですね。
ただ、周囲のアーティストに影響を受けることはあります。
一人のアーティストに「この色遣いはとってもきれいだね」と話していたら、別のアーティストがいつの間にか色遣いを微妙に変えていたことがありました。
「あの人の色遣いは絵に奥ゆきが出て、ステキだったから」と。
また、一人ひとりがものすごい集中力で描いているのを見て、お互い「自分も頑張らなくては」と思うようです。
相澤:絵の描き方には、一人ひとりに個性があるんですが、周囲のアーティストの影響を受けて、取り入れようとすることもあります。いやいや、あなたはあなたの方法でと、止めに入ることも…(笑)。
柳川:一般企業でよくみるのが、営業成績を競わせるようなマネジメントです。
管理する側としては、給与に見合った成績をという期待もあって、「A君のように頑張れ」とはっぱをかけるのは、楽なんですね。
KPCでは企業で働く人の幸福度を調べているんですが、こうした企業には不幸な人がたいへんに多く、生産性も上がらないということが見られます。
ポジティブに、一人ひとりのモチベーションを上げていくことを、企業も考えなくてはならないところに来ています。
パソナハートフルは、「才能に障害はない」として、人間の能力を最大限に発揮しようというポジティブな発想でスタートしていると感じています。
大多数の企業とは異なる変わった取り組みが可能になっている背景を聞かせてください。
千田:障害も肯定するという考え方です。
相澤先生もおっしゃっているように、ここでは肯定からすべてを始めます。
ひとり一人、肯定される内容も異なります。
パソナグループ代表の南部靖之も、パソナハートフル社長の深澤旬子も、トップの考え方がぶれない、障害者のサポートを第一に後押しをしてくれるので、私たちスタッフは自信を持って取り組めています。
例えば、トップが「そうは言っても絵が高く売れないと…」とプレッシャーをかけてくるようなことがあればどうでしょう。
パソナハートフルでは、画商を通していません。
絵を高く売らなければならないとも規定していません。
障害者アートにおいては、過去に、絵が商品として高く売れた結果、アーティストに商業的なさまざまな要求が突き付けられ、もてあそばれるような扱いを受けた末に、短期間で捨てられるというようなこともあったようです。
高く売れるのはよいことですが、商業的に都合よく利用されるようになってしまっては本末転倒なので、高く売ることだけを第一の目標に掲げてはいないのです。
柳川:営業担当の岡田さんはいかがですか?
絵を売るとなると簡単なことではないと思います。立場上、難しいと感じることはないのでしょうか?
岡田:肩書きは営業ですが、営業しているという感覚はありません。
彼らの才能を活かして描いてもらった絵に感動してくれる人、ファンを増やしたいと考えています。
柳川:ファンを増やすために、どのような活動をしていますか?
岡田:主役はパソナハートフルのメンバーです。
メンバーの中には言葉で説明することが難しい人もいるので、彼らの代わりに彼らの活動を言葉で伝える役割を担っているという感覚です。
柳川:障害者雇用のコンサルティング事業もなさっていますが、その分野の営業についてはいかがですか?
岡田:障害者雇用は法律的にも義務化されてきています。
雇用しなくてはならないから雇用するのではなく、まずは障害者への理解を深めていただくようにお伝えしています。
柳川:パソナハートフルが企業として課題としていること、目指していることがありますか?
千田:前身から含めるとパソナグループが障害者雇用に取り組みはじめて29年目になります。ここまで創り上げてきてくださった人々がいて、その活動を継続しながら発展するという時期に来ていると思っています。
次世代の雇用や、彼らにとってより働きやすい環境を整えていくことが課題です。
Vol.3
個人の能力を最大限に発揮するためにも、大切なのは「寄り添う」こと
柳川:私は外からパソナハートフルの活動を見ているわけですが、これまでにパソナハートフルが培ってきた考え方の中には、一般企業が学ぶべきものがたくさんあるように思っています。
画一的にはくくることができない人たちといかに協働していくか、健常者という言い方もどうかと思いますが、同じことではないかと。
効率よく働くだけでなく、スタッフの能力を最大限に引き出すことで生産性を上げることにもつながっているように思います。
個人の能力を最大限に発揮するという観点で、先生にアドバイスをいただけますか?
相澤:寄り添うことですね。
それは、ベタベタとしつこくするのではなくて、いつもあなたを見ていますよという寄り添い方です。
絵が上手いからとか、お行儀がいいから、あなたを評価するというのではなく、あなたの存在そのものを見ていますと。
幼子を抱く時に、親の方に顔を向けて抱くのではなく、子どもの顔が前に向くように背中を抱いてやることが子どもの成長につながるという話もあります。背中に親の存在を感じて安心していられる状態が大切なのです。
柳川:深いですね。それって、企業だけの話ではなく、家族のあり方からなんですね。
育つ過程で安心感に包まれているかどうかで、他人に対する態度も変わってくるんでしょうね。
千田:そうですね。家族のあり方が仕事を左右することはよくあります。
障害のあるメンバーと仕事をしているので、保護者の方々と日ごろから連携しています。
電話や連絡帳で状況を伝えあい、何か問題があったときには、家庭と職場の双方で解決していきます。
柳川:KPCでは、現在、知的障害のある子どもたちの施設で検証事業を行っているのですが、子どもにあまり興味がないお母さんが増えてきていると、現場の先生からお聞きしました。
障害のない子どものお母さんも同様のようですが、母親たちが子どもに興味を持たない傾向が増えていて、教員たちは、まずお母さんを教育せざるを得ない状況にあるそうです。
社会現象化していますね。
パソナハートフルは人に寄り添うということを実行しています。仕事の概念を超えてしまっているようにも思うのですが、いかがでしょうか?
千田:寄り添うという意味では、仕事の概念を超えていることもあるのかもしれません。
しかし、仕事だからこそ、社会的に彼らを肯定できています。
彼らも対価をいただく仕事を通して、社会に貢献していることに誇りを感じています。
柳川:仕事である以上、対価が大切なのは一般企業も同じだと思います。
私はスタッフに、どんなに小さな仕事でも有料にするように徹底しています。
初回は試しなのでタダでやりましょう、としてしまうと、途端に何の責任も生まれない状況に陥ります。
お金をいただくからこそ一生懸命に結果を出すというのが仕事だと思います。
相澤:私は、絵画は商品なので、売れなくてはいけないと思っています。
売れるということに何のマイナスもありません。
千田:その通りですね。
ただ、パソナハートフルのアーティストではないのですが、過去に障害者アートでもてはやされ、わずか数年でつぶれた人を何人も見てきて、難しさも感じています。
作品が素晴らしいとご注文いただく方から「こういう絵を描いてほしい」と細かいオーダーをいただくこともあります。
オーダーいただくことも必要なのですが、彼らはオーダーを踏まえた上で、彼らのありのままの絵を描きます。事前にお客様にはご説明しますが、「でき上がった作品が要望と違ったので、描き直して欲しい」と言われることもあります。その時には、私や先生が盾になって再度きちんとご説明をしています。
しかし、そのことを直接アーティストに伝えていなくても、彼らは敏感にその空気を感じ取ります。さらに、彼らは特有のするどい感性を持っているので、混乱してしまうんですね。
相澤:千田さんともよく話すのですが、心ないひと言で15年をかけて蓄積してきたものが5分で壊れるということもあるのです。
柳川:私自身もアーティストの支援もしています。知的障害者ではないですが。
その人たちも外の人に合わせようとしていると、世界観が変わってきてしまうというのを見ています。
アーティストの世界観を理解するピンポイントの人に売ることが理想というか、唯一の解決策なのですが、そうなると営業ですね。
私が代表を務めるAir Aroma Japanも同じです。
設立当初から、苦しい懐具合にも関わらず、私たちが一緒にやっていきたいと思える企業だけを選んで仕事をしてきました。
その体制で2年頑張った結果、現在は90%が口コミで回っています。
それでも、日銭を稼ぐ、売上を上げる努力はもちろん必要で、そこが大変ですけれどね。
岡田:確かに大変ですが、私自身はパソナハートフルのメンバーと一緒に仕事ができて幸せだと感じています。
初めにファンの人探しをしていると言いましたが、ファンの人から口コミで広がり、理解者が増えているのを日々感じています。
柳川:パソナハートフルを見学に来る人はどのくらいあるのでしょうか?
岡田:障害者雇用のセミナーなどを開催することで来社いただき、障害者雇用の概要や法律の話をすると同時に、社内を案内して作品などを見ていただきます。
関心の入口は違っていても、こうした機会を持つことでパソナハートフルの活動に感動し、ファンになってくださる方が徐々に増えています。
柳川:5年後のパソナハートフルについてお聞かせください。
相澤:新しいアーティストにどんどん生まれ代わっていってほしいと願っています。
残酷ですが、新陳代謝は必要です。
すごくいいアーティストだとしても、過去の経験にぶら下がっていてはいけないと思っています。
千田:パソナハートフルがサポートしているアーティストは、現在21人です。
相澤先生が「障害があるから才能がある」とおっしゃいましたが、その才能に気づかれていない障害者が、本当にたくさんいると思います。
アーティストとして雇用することは、その人の人生をつくることでもあり、責任は重いのですが、一人でも多くを発掘したいですね。
多くの施設で、障害者の月給は驚くほど本当に安いです。
自立支援法ができて、いろいろなものが引かれると手取りがマイナスになるケースもあるようです。それでは自立にはほど遠い状況です。
素晴らしい才能を持っている方を一人でも多く発掘し、絵を描くことで自立できるようにしたいのです。
岡田:私は、パソナハートフルの活動が、障害者に限らず一人でも多くの人をハッピーにできたらいいと思っています。商品のパッケージなどにアートを使っていただくようなコラボレーションを増やしていきたいですね。
柳川:ひとり一人の感性を活かすことが、これからの企業にとって未来を拓くことになっていくと思っています。
パソナハートフルは、感性を活かす企業活動をなさっていますが、そのために必要なこととは何だとお考えですか?
相澤:それはもう、企業にあってはトップの感受性ですね。
では、感受性とは何かと言えば、豊かに育った人なのだと思います。金銭的にという意味ではなく。
千田:パソナハートフルでは、パソナグループを牽引する創業者の南部靖之の考え方ですね。働きたいと願う誰もが、才能・能力を最大限に発揮し、それぞれのライフスタイルにあわせた働き方で活躍することができる社会を目指すということで、社員ひとり一人にもそうあってほしいという姿勢があるので、私たちも安心して働けます。
トップが変わると企業文化ががらりと変わることは、よくあることだと思います。
ひとり一人の努力も大切ですが、トップの姿勢は本当に大きいと感じています。
柳川:今日の対談の中で、「寄り添う」という話をいただけたことが印象的でした。
まず自分自身を受け入れること、個人を認めさせることが大切だと聞いて、なるほどそうだろうなと思っていました。
自分自身を受け入れていない人が、本当に多いので。それだと行き詰ってしまいます。
では、能力を最大限に発揮させるにはどうしたらいいのかと言えば、寄り添うしかないという話が示唆に富んでいました。
寄り添うとは、給料を上げることでも、時間の管理や環境でもなく、本質的には母親が子どもの背中を見守るような安心感。
企業の中にはないですし、社会の中でも薄れてきているように思います。
安心感があるからのびのびと能力を発揮することができ、信頼関係も生まれていくのだと感じました。
企業の中にも、人が人に寄り添うという姿勢が必要ですね。
本日は、ありがとうございました。